落下するトーストの力学

元ネタ

Tumbling Toast, Murphy's Law and the Fundamental Constants

http://iopscience.iop.org/0143-0807/16/4/005

論文内容

「トーストを落とすとバターを塗った面が必ず下になる」というマーフィーの法則(元は、イギリスの諺に由来するらしい)を、力学的に解析した話。トーストを落とすと言っても、手に持ったトーストを落とした場合は、大体そのままの"姿勢"で落ちていくはずなので、皿(論文ではテーブル)から、うっかり滑り落ちるというような状況が対象

解析を簡単化するため、皿やテーブルの上を滑っていく過程は忘れて、皿/テーブルの端っこに、ぽっとトーストを置いたという状況を仮定する(論文の後半では滑っていく過程も考慮に入れた解析がされている)。この時、大雑把に言って、皿に載っている部分より、皿からはみ出ている部分の面積の方がある程度以上大きければ、トーストは皿の縁を軸にして回転し、やがて摩擦がトーストを支えきれなくなると皿を離れ落下していくことになる。テーブル/皿の高さを大体1m程度(論文では75cm)とすると、トーストが落下する時間T(sec)は、空気抵抗を無視すれば、

\((1/2) \times 9.8(m/s^2) \times T^2 = 1(m)\)

より、T≒0.5(sec)程度と見積もれる。あと、トーストが皿を離れる瞬間の角速度と、その時の傾きが分かれば、トーストが落下するまでに、どのくらい回転するかが計算できる。大抵の場合、トーストはバターを塗った面が上に置かれているだろうから、丁度180度前後回転するようなら、バターを塗った面が下になって落ちるということになる

通常皿は丸いことが多いけど、トーストが載っている土台は四角いものとし、トーストも薄い長方形板だと思う。更にトーストが斜めにはみ出してる状況を考えるのは厄介なので、"まっすぐ"はみ出してる状況に限定する。トーストの質量を\(m\)で、はみ出してるトーストを横から見たときのトーストの長さが\(2a\)、はみ出してる長さを\(a+\delta\)とすると、慣性モーメントは、平行軸の定理より

重心を通る軸周りのモーメント+\(m\delta^2\)

で、トーストを長方形の板と思い、厚さを無視すると、重心を通る(テーブルの縁と平行な)軸周りの慣性モーメントは\(ma^2/3\)で与えられるので、角速度の時間発展が決定できる。ちゃんと書くと(論文の式(3)と(4))、

\(\theta=\theta(t),\omega=\dot{\theta}\)をトーストが回転した角度及び角速度として

\(m(a^2/3 + \delta^2)\dot{\omega} = -mg\delta \cos\theta\)

で、積分すると

\(\omega^2 = \dfrac{6g \delta}{a^2+3\delta^2}\sin\theta\)

を得る

いつトーストが皿を離れるかは、抗力\(R\)との釣り合い(論文の式(1))及び、遠心力と摩擦力\(F\)の釣り合い(論文の式(2))

\(m \delta \dot{\omega} = R - mg \cos\theta\)

\(m \delta \omega^2 = F - mg \sin\theta\)

について、トーストが滑らない条件\(F \leq R \mu\)を考えればいい(\(\mu\)は最大静止摩擦係数)。

適当に計算すると

\(\dfrac{9\delta^2 + a^2}{a^2} \tan\theta \leq \mu\)

となって、論文の式(7)を得る。

実測値によれば、トーストと皿の最大静止摩擦係数は、0.25程度らしい(論文の式(11))。\(\delta\)\(a\)に比べると、大分小さいと思われるので、\(\mathrm{atan}(0.25) \approx 0.25(rad) \approx 14^{\circ}\)程度が、落下し始める時の傾きと思われる。これから、落下時の初期角速度も決定することが出来る。論文では\(2a \approx 10(cm)\)という値を用いている。\(\delta\)\(1(cm)\)くらいとすると、

\(\omega = \sqrt{ \dfrac{6 \times 9.8 \times 0.01 \times \sin(0.25)}{0.05^2+3 \times (0.01)^2} } \approx 7.40(rad/s)\)

より、(落下時間は0.5秒程度だったことを思い出すと)落下時に212度くらい回転する。落下し始めに15度くらい回転してるので、合計230度くらい。まあ妥当?