3次元Euclid代数の既約ユニタリ表現

一応、一通り流れがまとまっている文献として、古いものではあるが
Some applications of the representation theory of the Euclidean group in three-space
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cpa.3160170409/abstract
がある。

Euclid運動群の定義として、\(E(3) = \mathbf{R}^3 \rtimes O(3)\)\(SE(3) = \mathbf{R}^3 \rtimes SO(3)\)の二種類がある。ここでは後者の被覆群\(\widetilde{SE}(3) = \mathbf{R}^3 \rtimes SU(2)\)の既約ユニタリー表現について考える。

基本的に、Mackeyによる誘導表現の構成を利用する。\(A = \mathbf{R}^3\)として、双対群\(\hat{A}\)への\(SU(2)\)作用を考えると、軌道は、半径\(r\)の球面となる。半径\(r=0\)のところからは、有限次元既約表現が出るが、これは容易なので省略する。従って、以下\(r>0\)とする。半径\(r\)の球面\(S_r\)上の一点を固定する\(SU(2)\)の部分群を考える。固定される点は、どこに選んでもいいので\(p_0=(0,0,r)\)とする。そうすると、この点を固定する\(SU(2)\)の部分群\(L_0\)は、\(z\)軸周りの回転の二重被覆群となり、その既約ユニタリ表現は、半整数\(s \in \dfrac{1}{2} \mathbf{Z}\)で分類される。これらの既約ユニタリ表現はどれも一次元である。

\(\mathbf{p} = (r \sin \theta \cos \phi , r \sin \theta \sin \phi , r \cos \theta) \in S_r\)に対して\(h : S_r=SU(2)/L_0 \to SU(2)\)\[h(\mathbf{p}) = \begin{pmatrix} \cos(\theta/2) e^{i \phi} & -i \sin(\theta/2) e^{i \phi} \\ -i \sin(\theta/2) e^{-i \phi} &\cos(\theta/2) e^{-i\phi} \end{pmatrix}\] で定義する。また\(R:SU(2) \to SO(3)\)\(SU(2)\)の3次元表現で定義する(あるいは、被覆写像と思ってもいいが)と、このとき\(R(h(\mathbf{p}))p_0=\mathbf{p}\)なので、\(h\)\(SU(2)/L_0\)の代表元を取り出す写像となっている。


で、一般論に従って、\(A \in SU(2)\)に対して \[Q(\mathbf{p},A) = h(\mathbf{p})^{-1}A h(A^{-1} \mathbf{p}) \in SU(2)\] を定義すると、\(R(Q(\mathbf{p},A)) p_0 = p_0\)となり、\(p_0\)を固定する。\(p_0\)を固定する\(SU(2)\)の部分群\(L_0\)の既約ユニタリ表現\(\sigma_s(s \in \dfrac{1}{2} \mathbf{Z})\)に対して、\(\sigma_s(Q(\mathbf{p},A))\)が定義できる。\(L_0\)は群としては、\(U(1)\)と同型であり、表現\(\sigma_s\)\[\sigma_s(z) = z^{s} \space (z \in \mathbf{C} , |z|=1)\] で定義される

以上の準備の元で、\(r>0\)\(s \in \dfrac{1}{2} \mathbf{Z}\)を固定すると、\(f \in L^2(S_r , \mathbf{C})\)に対して\(\widetilde{SE}(3)\)の表現\(\rho_{r,s}\)\[( \rho_{r,s}(\mathbf{a},A)f )(\mathbf{p}) = e^{-i \mathbf{p} \cdot \mathbf{a}} \sigma_s(Q(\mathbf{p},A)) f(A^{-1} \mathbf{p})\] で定まる。実際に準同型であること\(\rho_{r,s}(\mathbf{a},A)\rho_{r,s}(\mathbf{b} , B) = \rho_{r,s}(\mathbf{a}+R(A)\mathbf{b},AB)\)\[Q(\mathbf{p},A) Q(A^{-1}\mathbf{p} , A^{-1}B) = Q(\mathbf{p},B)\] から従う。\(L^2(S_r,\mathbf{C})\)上の内積は、球面上の標準的なユニタリ内積による。こうして得られた表現を\(\mathcal{H}(r,s)\)として、これを\(SU(2)\)に制限して既約分解する。\(SU(2)\)の既約ユニタリ表現は、有限次元で、各次元に一つずつある。これらは、最大重複度1であることが論文[1]の4節で議論されているが、結構長いので省略する。ここでは、この事実は認めることとする。


それで、Lie環\(e(3)\)の作用を、\(\mathcal{H}(r,s)\)の基底に対して具体的に書き下したい。実Lie環\(e(3)\)は6つの生成元\(J_1,J_2,J_3,P_1,P_2,P_3\)を持ち、以下の関係式を満たす \[[J_1,J_2] = J_3 , [J_2,J_3] = J_1 , [J_3,J_1] = J_2\] \[[J_1,P_2]=P_3 , [J_2,P_3] = P_1 , [J_3, P_1] = P_2\] \[[P_i,P_j] = 0\] 複素化して、以下の演算子を導入する。 \[X_{\pm} = -i J_1 \pm J_2 ,H = 2 i J_3 , P_{\pm} = P_1 \pm i P_2\]

\(X_{+},H,X_{-}\)は、\(sl(2,\mathbf{C})\)-tripleと同じ関係式を満たす \[[X_{+} , X_{-}] = H\] \[[H , X_{\pm}] = \pm 2 X_{\pm}\]

\(\mathcal{H}(r,s)\)\(SU(2)\)に制限した時、\(SU(2)\)\(2l+1\)次元既約ユニタリ表現に属する適当な基底(規格化されてるとは限らない)を\(f_m^{(l)}(m=-l,\cdots,l)\)とする。\(J_1,J_2,J_3\)の方は標準的な作用 \[X_{+} f_{m}^{(l)} = (l-m) f_{m+1}^{(l)}\] \[X_{-} f_{m}^{(l)} = (l+m) f_{m-1}^{(l)}\] \[H f_{m}^{(l)} = 2 m f_{m}^{(l)}\]\[P_{+} f_{m}^{(l)} = -\dfrac{r(l-s+1)}{(2l+1)(l+1)} f_{m+1}^{(l+1)} + \dfrac{rs(l-m)}{l(l+1)}f_{m+1}^{(l)} + \dfrac{r(l+s)(l+m)(l-m)}{(2l+1)l} f_{m+1}^{(l-1)}\] \[P_{-} f_m^{(l)} = \dfrac{r(l-s+1)}{(2l+1)(l+1)}f_{m-1}^{(l+1)} + \dfrac{rs(l+m)}{l(l+1)}f_{m-1}^{(l)} - \dfrac{r(l+s)(l+m)(l+m-1)}{(2l+1)l} f_{m-1}^{(l-1)}\] \[P_3 f_{m}^{(l)} = -\dfrac{r(l-s+1)}{(2l+1)(l+1)} f_m^{(l+1)} - \dfrac{mrs}{l(l+1)} f_m^{(l)} - \dfrac{r(l+s)(l+m)(l-m)}{(2l+1)l} f_m^{(l-1)}\]

機械的な計算により、Casimir作用素が定数倍で作用することが分かる \[(P_1^2+P_2^2+P_3^2) f_{m}^{(l)} = r^2 f_{m}^{(l)}\] \[i (J_1 P_1 + J_2 P_2 + J_3 P_3) f_{m}^{(l)} = rs f_{m}^{(l)}\]

規格化された基底としては \[p_{m}^{(l)} = (-1)^{l+m} \sqrt{ \dfrac{(2l+1)\Gamma(l-s+1)}{(l+m)!(l-m)!\Gamma(l+s+1)} } f_m^{(l)}\] を取ることができる。この基底について作用を確認すると\(l=|s|,|s|+1,|s|+2,\cdots\)であることが分かる。この表現は、形式的には\(r<0\)に対しても定義されているが、\(r \neq 0\)に対して\(\mathcal{H}(r,s)\)\(\mathcal{H}(-r,-s)\)は同値な表現であり、従って\(r>0\)の場合のみを考えれば十分である

特に\(s=0\)の時 \[P_{+} p_m^{(l)} = r \left( -\sqrt{ \dfrac{(l+m+1)(l+m+2)}{(2l+1)(2l+3)} } p_{m+1}^{(l+1)} + \sqrt{ \dfrac{(l-m)(l-m-1)}{(2l-1)(2l+1)} } p_{m+1}^{(l-1)} \right)\] \[P_{-} p_m^{(l)} = r \left( \sqrt{ \dfrac{(l-m+1)(l-m+2)}{(2l+1)(2l+3)} } p_{m-1}^{(l+1)} - \sqrt{ \dfrac{(l+m)(l+m-1)}{(2l-1)(2l+1)} } p_{m-1}^{(l-1)} \right)\] \[P_3 p_m^{(l)} = r \left( \sqrt{ \dfrac{(l-m+1)(l+m+1)}{(2l+1)(2l+3)} } p_{m}^{(l+1)} + \sqrt{ \dfrac{(l-m)(l+m)}{(2l-1)(2l+1)} } p_{m}^{(l-1)} \right)\] となるが、 \[P_{\pm} = r (x \pm i y)\] \[P_{3} = r z\] \[p_m^{(l)} = r^l Y_{l,m}(x,y,z)\] と置くと、上の関係式を満たす。ただし\(Y_{lm}\)は球面調和関数



\(\mathcal{H}(r,s)\)の別の実現について。\(SU(2)\)\(2|s|+1\)次元既約表現\(V_{|s|}\)に対して、\(\Psi=\Psi(x,y,z) \in L^2(S^r,\mathbf{C}) \otimes V_{|s|}\)で(但し\(x^2+y^2+z^2=r^2\)とする) \[i(x S_1 + y S_2 + z S_3)\Psi = rs \Psi\] を満たすもの全体\(V(r,s)\)を考えると、\(V(r,s)\)\(\mathcal{H}(r,s)\)と同値な\(e(3)\)の表現が定まる。但し、\(S_i\)\(V_{|s|}\)への\(su(2)\)の作用で、\(J_i\)に対応するもの。\(e(3)\)の作用は\(L^2(S^r,\mathbf{C})\)へは\(\mathcal{H}(r,0)\)として作用し、\(V_{|s|}\)成分へは\(J_i\)\(\sigma_i\)として作用する。つまり \[T_{r,s}(P_i) = \rho_{r,0}(P_i) \otimes 1\] \[T_{r,s}(J_i) = \rho_{r,0}(J_i) \otimes 1 + 1 \otimes S_i\] となる。もし、\(V(r,s)\)が空でなければ、定義から\(P_1^2+P_2^2+P_3^2\)\(r^2\)倍として働くこと、\(i(J_1 P_1 + J_2 P_2 + J_3 P_3)\)\(rs\)倍の定数作用素として働くことは明らか。

具体的に\(s=\dfrac{1}{2}\)の時

\(S_1 = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} 0 & -i \\ -i & 0 \end{pmatrix}\) , \(S_2 = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}\) , \(S_3 = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} -i & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix}\)

\(L_1 = -\left( y \dfrac{\partial}{\partial z} - z \dfrac{\partial}{\partial y} \right)\) , \(L_2 = -\left( z \dfrac{\partial}{\partial x} - x \dfrac{\partial}{\partial z} \right)\) , \(L_3 = -\left( x \dfrac{\partial}{\partial y} - y \dfrac{\partial}{\partial x} \right)\)

\[C = x S_1 + y S_2 + z S_3 = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} -i z & -i x - y \\ -i x + y & i z \end{pmatrix}\] とすると、 \[C^2 + \dfrac{r^2}{4} I = (C + \dfrac{i r}{2} I) (C - \dfrac{i r}{2} I) = 0\] なので \[\Psi_1 = (i C + \dfrac{r}{2}) \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix} = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} z + r \\ x + i y \end{pmatrix}\] \[\Psi_2 = (i C + \dfrac{r}{2}) \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} = \dfrac{1}{2} \begin{pmatrix} x - i y \\ -z + r \end{pmatrix}\] と置くと\(x^2+y^2+z^2=r^2\)に注意して \[i(x S_1 + y S_2 + z S_3)\Psi_1 = \dfrac{r}{2} \Psi_1\] \[i(x S_1 + y S_2 + z S_3)\Psi_2 = \dfrac{r}{2} \Psi_2\] を計算できる。

ここで\(H = -2i (L_3 + S_3)\)とすると \[H \Psi_1 = -\Psi_1\] \[H \Psi_2 = \Psi_2\] となる。同様に、\(J_{+}\)\(J_{-}\)は昇降演算子として働く。これに位置演算子を作用させていくことで\(\mathcal{H}(r,\dfrac{1}{2})\)を得る。\(\mathcal{H}(r,-\dfrac{1}{2})\)も同様に得ることもできる

\(s=1\)の時 \[S_1 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix},S_2 = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \end{pmatrix},S_3 = \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}\] として \[C = (x S_1 + y _S2 + z S_3) = \begin{pmatrix} 0 & -z & y \\ z & 0 & -x \\ -y & 0 & x \end{pmatrix}\] と置くと、 \[C^3 + r^2 C = (C+ i r I)(C^2 - i r C) = (C - i rI)(C^2 + i r C) = 0\] なので、同様に、\(\mathcal{H}(r,\pm 1)\)を得ることができる