Lorentz変換の代数的導出

1910年に、Ignatowskiが、光速度不変の原理を仮定しないで、Lorentz変換を導出する方法を考えた。そのvariation。

互いに等速運動する座標系\(S,S'\)を考え、座標系\(S\)に対して、\(S'\)\(x\)方向に速度\(v\)で動いているとする。この時、座標\((t,x)\)と座標\((t',x')\)が線形変換\(A(v)\)で結ばれるとする。 \[\begin{pmatrix} t' \\ x' \end{pmatrix} = A(v) \begin{pmatrix} t \\ x \end{pmatrix}\] 自然な条件として、以下が成立すると仮定する

  1. \(A(0) = A(v) \circ A(-v) = A(-v) \circ A(v) = I\)

  2. \(A(u) \circ (A(v) \circ A(w)) = (A(u) \circ A(v)) \circ A(w)\)

自明なケースとして、全ての\(v\)に対して、\(A(v)=I\)があるが、除いておく

一般に、\(A(u) \circ A(v) = A(f(u,v))\)を満たす関数\(f(u,v)\)は(存在すれば)速度合成則と呼ぶ。

\(f(u,v)\)は存在し、\(u=0,v=0\)でTaylor展開できると仮定すると、\(f(u,v)\)は実数係数の形式的べき級数として、一次元formal group lawとなる。

実際、\(f(u,v) = f_{10} u + f_{01} v + \cdots\)とすると、条件(1)から、\(f(v,0) = f(0,v) = v\)なので\(f_{10} = f_{01} = 1\)となる。従って、 \[f(u,v) = u + v + \cdots\] で、これは条件(1)から従う\(f(v,-v) = f(-v,v) = 0\)とも矛盾しない

また、条件(2)は、結合則なので、そのまま、formal group lawの結合則が得られる。そして、formal group lawの一般論から、一次元formal group lawは可換なので、 \[f(u,v) = f(v,u)\] も得る。

\(S\)系に於ける速度は、\(\dfrac{dx}{dt}\)なので、速度合成則は \[\dfrac{dx}{dt} = f \left(\dfrac{dx'}{dt'} , v\right)\] を満たす。すると、座標変換を線形変換としているので、 \[f(u,v) = \dfrac{b_{21}(v) + b_{22}(v)u}{b_{11}(v) + b_{12}(v)u}\] という形になることが分かる。\(b_{ij}(v)\)\(A(v)\)の逆行列=\(A(-v)\)の行列要素。

まず、 \[f(0,v) = \dfrac{b_{21}(v)}{b_{11}(v)} = v\] なので、\(b_{21}(v) = v \cdot b_{11}(v)\)が言える。また、 \[f(-v,v) = \dfrac{v (b_{11}(v) - b_{22}(v))}{b_{11}(v) - b_{12}(v)v} = 0\] となるので、\(b_{11}(v) = b_{22}(v)\)が従う。以上より \[f(u,v) = \dfrac{(u + v)b_{11}(v)}{b_{11}(v) + b_{12}(v) u}\] となる。\(b_{12}(v)/b_{11}(v) = \alpha(v)\)とすると \[f(u,v) = \dfrac{u + v}{1 + \alpha(v) u}\] となる。\(f\)の可換性\(f(u,v)=f(v,u)\)より、\(\alpha(v) = \gamma v\)の形でないといけない。\(\gamma\)は任意の定数

従って、 \[f(u,v) = \dfrac{u + v}{1 + \gamma u v}\] となる。これは、formal group lawの条件を満たす。これは、Lorentz formal group lawという名前で呼ばれることがある

\(\gamma = 0\)の場合は、ガリレイ変換に対する速度合成則で、\(\gamma = \dfrac{1}{c^2}\)がLorentz変換の場合の速度合成則を与える。光速度不変の原理を仮定しなければ、\(\gamma\)を光速と結びつける理由は何もないし、負の実数であっても問題はない

速度合成則からだけでは、\(b_{ij}(v)\)には\(v\)の関数倍だけ不定性があるので、Lorentz変換の形は決まらない。Lorentz変換の形は、今の所、以下の形であることまで決まっている \[A(v) = c(v) \begin{pmatrix} 1 & -\gamma v \\ -v & 1 \end{pmatrix} \] 簡単には、鏡映変換\(x \mapsto -x , v \mapsto -v\)で変換が不変であることを仮定すれば、\(c(v) = c(-v)\)であることが言えるので、\(A(v) \circ A(-v) = I\)から、 \[c(v) = \pm \dfrac{1}{\sqrt{1 - \gamma v^2}}\] と決定できる。また、\(A(0)=I\)より、 \[c(v) = \dfrac{1}{\sqrt{1 - \gamma v^2}}\] と一意に決まる