su(1,1)のlimit of discrete series

limit of discrete series

\(V=\mathbb{C}[z,z^{-1}]\) に対して、\(V\)上の表現 \(\rho : \mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) \to End(V)\) を、以下で定義する。

\(\rho(e) = z^2 \dfrac{d}{dz} + z\)

\(\rho(f) = -\dfrac{d}{dz}\)

\(\rho(h) = 2 z \dfrac{d}{dz} + 1\)

ここで、\(e,f,h\)は、以下の条件を満たすChevalley基底とする

\([h,e]=2e , [h,f]=-2 f , [e,f] = h\)

初等的な計算で、

\(\begin{cases} \rho(h)z^n = (2n+1)z^n \\ \rho(e) z^n = (n+1) z^{n+1} \\ \rho(f)z^n = -n z^{n-1} \end{cases}\)

が分かる。

 

\((\rho,V)\)\(\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\)の表現を定めることは容易にわかるが、既約ではなく、以下の2つの不変部分空間を持つ。

\(V_{+} = \mathbb{C}[z]\)

\(V_{-} = z^{-1}\mathbb{C}[z^{-1}]\)

\(V_{+}\),\(V_{-}\)それぞれへの\(\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\)の表現は、limit of discrete seriesとして知られる表現になっている。

\((\rho,V)\)は、連続主系列表現の一つであり、連続主系列表現は、殆どの場合は、既約になるけど、これは、そうでない。

反線形写像\(\theta: \mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) \to \mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\)

\(\theta(e) = f , \theta(f) = e , \theta(h)=-h\)

で定めると、\(\theta\)の固定点は、実Lie環を定義する。このLie環は、\(\mathfrak{su}(1,1)\)

次に、\(V\)上の内積を

\((z^n,z^m) = \delta_{nm}\)

で定めると、\(v,w \in V\)\(x \in \mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\)に対して

\((\theta(x) v , w ) + (v , \theta(x)w) = 0\)

が成立する。

\(V\)自体は、この内積について完備ではないけれど、 \(z \mapsto e^{i \theta}\)によって、

\(\mathbb{C}[z,z^{-1}] \hookrightarrow L^2(S^1)\)

が定義できる。これは、単射であり、また、

\((f(z) , g(z)) = \dfrac{1}{2\pi}\displaystyle \int_{0}^{2\pi} f(e^{i\theta})\overline{g(e^{i \theta})} d\theta\)

で、内積を保つ。

Poisson積分

\(V=\mathbb{C}[z,z^{-1}]\)と、\(\mathbb{C}[w] \oplus \bar{w} \mathbb{C}[\bar{w}]\) の間には、自然な(ベクトル空間としての同型が存在する)。

更に、 \(\mathbb{C}[w] \oplus \bar{w} \mathbb{C}[\bar{w}]\) と、二変数調和多項式の全体 \(\mathcal{H} = \{f \in \mathbb{C}[x,y] | \Delta f = 0 \}\) には、 \((w,\bar{w}) \mapsto (x+iy , x- iy)\) によって、1:1対応が存在する。

\(V\)から、\(\mathcal{H}\)への写像は、解析的には、Poisson積分で与えることができる。解析的な文脈では、Poisson積分は、単位円板\(D= \{ z \in \mathbb{C} | |z| < 1 \}\)の境界\(\partial D \simeq S^1\)上の関数から、\(D\)上の調和関数への写像と見なされる

Poisson核を形式的に、

\(P(z,w) = \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} z^n \bar{w}^n + \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} z^{-n} w^n\)

とすれば

\(P(e^{i \theta} , w) = \dfrac{1}{1-e^{i\theta}\bar{w}} + \dfrac{e^{- i\theta}w}{1-e^{-i\theta}w} = \dfrac{1-|w|^2}{|1-e^{-i\theta}w|^2} = \dfrac{1-|w|^2}{|w-e^{i\theta}|^2}\)

となり、通常のPoisson核を得ることが出来る

Cayley変換

単位円板は、上半平面\(\mathbb{C}_{+} = \{ z \in \mathbb{C} | \mathrm{Im}(z) > 0\}\)からの等角全単射を持つ。\(\mathbb{C}_{+}\)の境界は、\(\mathbb{R}\)である。

上半平面から、単位円板への全射

\(z \mapsto \dfrac{z-i}{z+i}\)

は、Cayley変換として知られる。

\(n \in \mathbb{Z}\)に対して

\(z^n \mapsto v_{n}(x)=\dfrac{1}{\sqrt{\pi}} \dfrac{1}{x+i}\left( \dfrac{x-i}{x+i}\right)^n\)

\(H' = -i(1+x^2)\dfrac{d}{dx}-ix\)

\(E' = \dfrac{1}{2i}(x-i)^2 \dfrac{d}{dx} + \dfrac{1}{2i}(x-i)\)

\(F' = \dfrac{i}{2} (x+i)^2 \dfrac{d}{dx} + \dfrac{i}{2}(x+i)\)

とすると

\(H' \cdot v_n = (2n+1) v_n\)

\(E' \cdot v_n = (n+1) v_{n+1}\)

\(F' \cdot v_n = -n v_{n-1}\)

こうして、再び、limit of discrete seriesの実現を得る。\(v_n(x)\)に、広く使われる名前は、付いていないようだけど、Wienerの有理関数と呼ばれていることがある

歪エルミート共役を取る操作\(\theta'\)は、以下で定まる

\(\theta'(H') = -H' , \theta'(E') = F' , \theta'(F') = E'\)

そして、\(\theta'\)の固定点は、以下の元の実係数の線型結合で与えられる

\(H = -(E'+F') = 2 \dfrac{d}{dx} + 1\)

\(E = \dfrac{1}{2}(iH' + iE' - iF') = x^2 \dfrac{d}{dx} + x\)

\(F = -\dfrac{1}{2}(iH' - i E' + iF') = -\dfrac{d}{dx}\)

\(g = \left(\begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array}\right) \in SL(2,\mathbb{R})\)\(L^2(\mathbb{R})\)への作用を

\(\rho(g)(f)(x) = \dfrac{1}{cx+d}f\left(\dfrac{ax+b}{cx+d}\right)\)

で定める時、無限小作用は、\(H,E,F\)の線形結合で与えられる

Laguerre関数

\(v_n(x)\)は、Fourier変換すると、スケーリングと定数倍を除いて、Laguerre関数に移る

\(n \geq 0\)の時

\(\dfrac{1}{2 \pi} \displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} e^{-itx} \dfrac{(x-i)^n}{(x+i)^{n+1}}dx = \begin{cases} \dfrac{1}{i}e^{-t}L_n(2t) & (t \geq 0) \\ 0 & (t <0) \end{cases}\)

\(L_n(t)\)は、Laguerre多項式で、

\(L_n(t) = \dfrac{e^t}{n!} \dfrac{d^n}{dt^n} (e^{-t} t^n)\)

によって定義される

Laguerre関数\(e^{-x/2}L_n(x)\)が、\(L^2(0,\infty)\)の直交基底をなすことは、よく知られている

\(V=\mathbb{C}[z,z^{-1}]\)を、\(V_{+}=\mathbb{C}[z]\)\(V_{-} = z^{-1}\mathbb{C}[z^{-1}]\)という二つのlimit of discrete seriesの表現空間に分解したが、この分解は

\(L^2(\mathbb{R}) \simeq L^2(0,\infty) \oplus L^2(-\infty,0)\)

に対応している。

\(h_n(x) = \begin{cases} e^{-x/2}L_n(x)U(x) & (n \geq 0) \\ -e^{x/2}L_{-n-1}(-x)U(-x) & (n<0) \end{cases}\)

\(U(x) = \begin{cases} 1 & (x \geq 0) \\ 0 & (x<0) \end{cases}\)

とすれば、\(h_n(x)\)は、\(L^2(\mathbb{R})\)の正規直交基底になる。

Fourier変換しただけなので、\(h_n(x)\)を基底として、limit of discrete seriesを実現することもできる

Hilbert変換と解析信号

\(h_n(\omega)\)\(v_n(t)\)は、互いにFourier変換の関係にある。

\(L^2(\mathbb{R})\)から\(L^2(\mathbb{R})\)へのHilbert変換は、

\(v_n(t) \mapsto -i v_n(t) (n \geq 0)\)

\(v_n(t) \mapsto i v_n(t) (n<0)\)

という変換として理解できる。\(\mathcal{H}\)をHilbert変換とすると

\(u \mapsto \dfrac{1}{2}(u + i \mathcal{H}(u))\)

は、\(n \geq 0\)に於いて、\(v_n\)を不変に保ち、\(n<0\)では、\(v_n\)を0に移すので、limit of (positive) discrete seriesへの射影となる

しばしば、実信号をFourier変換して、正周波数成分のみを逆Fourier変換で戻すことによって、解析信号を得るという操作が行われる(Hilbert変換を計算する方法としても使える)が、正周波数成分をFourier変換した空間の基底は、\(h_n(\omega)\) \((n \geq 0)\) で与えられるので、同様に、limit of discrete seriesの表現空間へ射影している操作になっている。